【第1回ハナショウブ小説賞】最終結果発表!
第1回ハナショウブ小説賞 受賞作品
このたびは、第1回ハナショウブ小説賞にご応募いただきありがとうございました。
受賞作は下記のとおり決定いたしました。
長編部門
【大賞】賞金30万円+書籍化
『Why do you care?』小原瑞樹
【金賞】賞金10万円
『こじらせアラフォーはあきらめない』南木野ましろ
【銀賞】
該当作品なし
【opsol book賞】
該当作品なし
あらすじ
◆『Why do you care?』小原瑞樹
どうして介護の仕事を続けるのか。新米介護職員が辿り着いた答えとは――?
就職活動が難航して希望していた企業に入社できず、やむなく有料老人ホームに就職し、介護職員として働く大石正人。高齢者や人の世話が好きではない正人は、介護の仕事に意義を見出せず、入社当初から退職することばかり考えていた。利用者に寄り添う優しい介護職員を目指すつもりもなく、仕事だと割り切ろうと自分に言い聞かせるも、本当にこんな気持ちで利用者に向き合っていいのかと葛藤する日々。そんな後ろ向きな気持ちを抱えたまま、ほかの職員に「どうして介護の仕事を選んだのか」と問うと、正人のようにやむなく仕事に就いている者もいれば、前向きな理由で介護の仕事を選択した者もいた。人気のある仕事に就いた友人と自分を見比べては劣等感を抱き、意欲のある同期と自分を比べては自分だけ熱意を持てないことに罪悪感を覚え、そんな悩ましさを抱えながら仕事を続けていく正人だったが、ほかの職員や利用者との関係が深まるとともに、自分の中の変化に気付き出す。それでも、転職するという未来を捨てられない正人だったが……。
◆『こじらせアラフォーはあきらめない』南木野ましろ
結婚に憧れるアラフォー医師×手術をしない訳あり外科医のこじらせ恋模様!
消化器外科医の橘楓子は仕事も自分磨きも努力しているのに、三十九歳にして未だ独身であることに焦っていた。ある日、居酒屋で「結婚したい」と友人に嘆いているのを、同じ職場の槙田陽太に聞かれてしまう。もともと楓子は、外科医でありながら手術をしない不愛想な槙田のことが苦手だった。情けない姿を見られた挙句「きみは絶対結婚できない」と言われ、ますます嫌悪する楓子だったが、患者からセクハラを受けて困っているところを助けられたことで、槙田を意識し始める。しかし、槙田は過去のとある出来事がきっかけで、彼女を作るつもりも、結婚するつもりもないのだという。槙田が遠回しに「好きになるな」と牽制していることに気付きながらも、自分の気持ちに素直になる楓子。そんな二人の関係が不器用ながらに進んでいたある日、とある患者の娘から「父の手術を槙田にお願いしたい」と依頼があり……。
最終選考作品
『Why do you care?』小原瑞樹
『西成弁護士と前田秘書の奇妙な事件診療録』秋月一成
『こじらせアラフォーはあきらめない』南木野ましろ
『白いラビリンス(迷い)~外科医が医事課でクレーム対応!?~』福岡高志
選考委員選評
鈴木征浩【opsol株式会社 代表取締役社長 opsol book代表】
◆『Why do you care?』小原瑞樹
圧倒的なリアリティ。プロフィールを拝見するまでもなく、著者が介護現場で働いた経験があることがわかりました。
ただ、経験があるが故だと思いますが、登場する用語についての解説が説明的に過ぎるように感じました。そしてそれが作品のテンポを乱してしまっていたのは残念です。また、長編小説だということを考えると、最後まで読者を離さないような展開の妙味という角度においては、もっとそれを求めたいという気持ちもありました。
ですが、そういった部分を補ってあまりある力を、本作は感じさせてくれました。
物語は、読者によっては「出来過ぎだ」と感じるかもしれません。介護現場にいると対面せざるを得ない、顔を背けたくなるようなエピソードも描かれてはいません。しかしそれは、著者が意図した結果だろうと感じます。全体を通して嫌味がなく、介護業界を肯定できる。業界に元気を届けられる、そして、業界で働く人たちに、意志と決意とモチベーションを届けられるかもしれない。読んでいて、そんな気持ちにさせてくれました。介護・福祉・医療の業界に身を置く者として本当にうれしく、本賞を開催して良かった、そう思うことができました。
ハナショウブ小説賞のテーマにぴったりと合致した素晴らしい作品で、第1回の大賞作品に相応しい作品だと考えます。
◆『こじらせアラフォーはあきらめない』南木野ましろ
冒頭から最後まで、楽しく読ませていただきました。悪い意味ではなくプレーンな文章で、終盤に近づくにつれてやや気になるところが出てはきたものの、リズム感があり、文章力の高さを感じました。
ただ、医療や病気・病気の症状に関する内容については違和感を感じる部分がありました。また、序盤から中盤にかけては、もっと終盤と対比できるように、登場人物のセリフだけでなく、全体の構成と終盤を意識した描写があると良かったかな、という印象も。
しかしながら、終盤の展開は良く、読みながら頭の中には実写化されたシーンが再生されており、映像化されるところが想像できる、動的な魅力を感じる作品でした。
最終選考の場においても最後まで議論され、迷いに迷った作品です。医療をテーマにした小説、というよりも、医療を仕事にしている人たちによる恋愛小説、という趣が強く感じられたため、本賞の主旨という観点から授賞結果の判断となりましたが、エンタテインメント性が高い作品として、強い輝きを放っています。
〈最終選考作品〉
◆『西成弁護士と前田秘書の奇妙な事件診療録』秋月一成
キャラクター造形について、勿体無いなという印象を受けました。特に主要登場人物については、もっともっと固めていっていただいていたらな、と。そして同じく、陰影をもっと意識的に描いていただきたかったな、とも思いました。
医療に関する記載内容も、少し表面的に過ぎるという印象をどうしても抱いてしまいました。ミステリ要素が強い作品であり、舞台が医療現場であるとなると重いテーマを扱うことが多くなるもので、本作もそのようなテーマを取り扱っているのですが、それは同時に、極めて難しい課題をいくつも抱えざるを得なくなるということでもあります。テーマに向かい合う角度は良いなと思うところもありましたので、描き方、そして医療現場や生命の現場における正義とは何かについて、もっともっと深掘りしていただけたらな、と感じました。
◆『白いラビリンス(迷い)~外科医が医事課でクレーム対応!?~』福岡高志
設定に無理があるな、というのが最初の率直な感想でした。無理がある設定、というものそれ自体は否定されるべきものではありませんが、それを作品として成立させるためには相応の論理やギミックが必要ですので、そういったことを深く掘り下げていけるとよかったかもしれません。
また、登場人物に共通しているある特徴について、非常に印象は深いのですが、それを作品の中に活かせておらず、むしろ邪魔をしてしまっているようにも感じました。全体を通して、文章表現の技術が荒削りで、医療や医療現場に関する情報が不正確な部分も目立ちました。
ともあれ、冒頭に記載した「設定に無理がある」ことは、昇華させることさえできれば独自性となり得ます。同じコンセプトで物語を描くのであれば、自己内での議論や調査及び確認作業をとことんまで突き詰めていただきたいな、と思っています。
宮川和夫【装丁家(宮川和夫事務所)】
◆『Why do you care?』小原瑞樹
著者は介護の現場で働いた(あるいは現在も働いている)経験があるのでしょう、実に事細かく分かりやすく説明してくれます。
ただ、この介護の現場の説明が物語の大半を占め、小説のエンタメ性という点では退屈であり平坦に感じました。
また、タイトルについては、より作品を象徴できるものに変えた方がいいと思います。
とはいえ、大学を卒業して、就職が決まらなかった主人公が仕方なく始めた介護職が、職場の人々、恋心を抱く同僚の女性などを通して次第に面白くやりがいのある仕事だということに目覚め、成長していく姿は清々しく、老人ホームの入居者に「辞めるな」と言われるシーンでは思わず落涙しました。
この賞の趣旨にもマッチしており、大賞にふさわしいと思います。
◆『こじらせアラフォーはあきらめない』南木野ましろ
まず、タイトルから想像する作品の印象と読み始めてからの作品の印象に、大きなズレを感じます。ライトノベルを想定して書いているのであればこのタイトルもいいのかもしれませんが、物語に入っていく以前に引っかかりを感じました。
プロローグの夢始まりについても、既に使い古された表現であり、この物語を表現するに当たって最適なものとは言い難いと感じます。タイトルと合わせて、再考の余地があると思います。
また、医者という目標とステータスを手に入れ、見た目も美しい今を生きる女性が、何故これほど結婚に拘泥するのかが疑問であり、そこが描ききれていないと思います。
とはいえ、医療系エンターテインメントとしてとても楽しく読めました。登場人物の会話のテンポもよく、これをテレビドラマ化したら誰がキャスティングされるのか考えてしまいました。
また、装丁をするのであればこの作品かなとも思いました。
どちらの作品にもいえることですが、介護施設も病院もどちらも閉ざされた世界であり、そこで描かれる人間関係もミニマムなのは分かりますが、それゆえに、登場人物の葛藤やジレンマを細やかに描いて欲しいと思います。また、同時にそれを生みだす社会へのアンチテーゼの目も持って欲しいと思います。
短編部門
【大賞】賞金5万円+電子書籍化
『光を受ける者たち』那月珠雨
*掲載当時からペンネームが変更されたことに伴い修正しています。
【金賞】賞金3万円
『おばあちゃんも魔女』草為
【opsol book賞】賞金1万円
『私の作りあげた世界へ』雑草
【opsol book賞】 賞金1万円
『ギフト』佐藤みずほ
選評
◆『光を受ける者たち』那月珠雨
特別支援学校にボランティアに来た高校生たちと、その周囲の人々の物語が四話に亘って構成されています。文章は荒削りですが、視点の美しさや表現力の素晴らしさ、構成力、しっかりとした知識があると感じます。トランポリンを使った授業のシーンでは特に、感性の瑞々しさや鮮やかさを感じました。ラストはブラッシュアップの余地があるものの、一際輝く感性と表現力、着眼点が選考委員に高く評価され、大賞の受賞となりました。
◆『おばあちゃんも魔女』草為
人間界で過ごす魔法使いの家族の物語です。主人公エリの祖母リリコが認知症を患ったことから、家族は魔界にある老人ホームへの入居を考え始めます。「介護・医療・福祉」をテーマにした中で、ファンタジー色が強く、マイナスイメージのない認知症の描写が評価されました。一部、文章の言葉遣いに違和感を感じる部分はありますが、福祉一辺倒ではなく、魔女というファンタジー要素があることで、ほかの作品と比べると差別化されていて魅力的でした。
◆『私の作りあげた世界へ』雑草
主人公 宮田十蔵は、自身が刑務所に入れられていると思い、外に出ようと決意します。しかし、実は宮田は認知症を患っており、刑務所だと思っていた場所は、高齢者施設だったのです。アイデアの新規性には欠けるかもしれませんが、テーマと切り口が良く、認知症当事者の視点で物語が進むことで、リアリティもあります。エピローグの部分を含め、小説としての完成度という意味での課題を感じるものの、福祉的な視点で読むと当事者の思いがよく表現できていると思いました。
◆『ギフト』佐藤みずほ
十歳の誕生日を迎えたマリがサマーキャンプに行っている間に、六つ年下の妹ユリが脳幹グリオーマという難病にかかっていることが判明。それによって家族の生活は一変します。本文に直接的な表現はありませんが、この物語の核の一つは「きょうだい児」であると感じました。冒頭のユリに対するマリの葛藤や、両親に対する寂しさがもう少し詳しく描写されていると、よりテーマ性が強くなるのではないでしょうか。現実を描きつつも、前を向いて生きるマリの姿は、読者に希望を与えられると思います。
大賞受賞者 受賞コメント
◆長編部門 大賞 『Why do you care?』小原瑞樹
〈受賞コメント〉
作品のテーマにぴったりな賞だと思って応募しました。元々は介護職としての経験を形にしたくて書いた作品でしたが、結果として介護現場のリアルを伝え、介護のなり手不足が危惧される時代に合った作品になったのかなと思います。また、現役医師の方が小説を書かれる例は多くありますが、介護職の作家は少ない印象があり、その点でも書いた意味があったのかなと思いました。大賞という結果をいただき大変光栄です。〈著者プロフィール〉
1991年生まれ。京都市在住。小説投稿サイト「カクヨム」や「エブリスタ」でミステリー、ファンタジー、現代ドラマなどの作品を掲載中。また、株式会社文芸社から、長編ファンタジー「沈黙の竜姫」を自費出版中。
◆短編部門 大賞 『光を受ける者たち』那月珠雨
〈受賞コメント〉
この度はこのような輝かしい賞を頂戴したこと、とても光栄に思います。今作品は、私の過去の実際のボランティア活動から着想を得て作りました。初めて対峙する現実の中で感じた衝撃が原動力だったはずの創作は、気づけば生徒の皆さんの明るい表情や、関わりの中で見つけた喜びを私に思い出させてくれました。当時の活動、並びにそれを一つの作品へと昇華させるきっかけとなったハナショウブ小説賞、この二つの機会に改めて感謝申し上げます。〈著者プロフィール〉
2004年生まれ、神奈川県出身。現在早稲田大学文化構想学部1年。地域ボランティアサークルで活動している。
中学生部門
【最優秀賞】
該当作品なし
【優秀賞】
該当作品なし
【opsol book賞】図書カード3千円分
『消せない呪いだけれども』マリア
選評
◆『消せない呪いだけれども』マリア
度重なる父からの暴力に母と二人で耐え続けていた「私」と、親友である莉苑に関する秘密が鍵となる物語です。何も知らない莉苑がしていることは、「私」にとって残酷である半面、救いにもなっていることに胸が締め付けられます。テーマである「介護・医療・福祉」という点では、少し物足りなく感じるという意見もありましたが、これからの二人の未来を見たいと思わせてくれるような作品でした。
小学生以下の部門
【最優秀賞】図書カード1万円分
『四世代家族の日常』梅月誠
【優秀賞】
該当作品なし
【opsol book賞】図書カード3千円分
『さようなら』KANNA
選評
◆『四世代家族の日常』梅月誠
二世帯住宅に四世代で住む中学生の奏太が、曾祖母と二人きりでの買い物中に起こった出来事をきっかけに、自身が高齢者とどのように付き合っていくかを考える物語です。見えている世界に違いがあること、財布の中に小銭が大量にあることなど、小学生ながら鋭い視点で書かれた物語は圧巻でした。曾祖母のことを思って、わざと花の色の話題をごまかした奏太でしたが、大人になった奏太がどんな選択をするのか、いつかまた読んでみたいと感じさせられました。
◆『さようなら』KANNA
看護師としての紆余曲折を乗り越えながら、日々を懸命に過ごす主人公れいかに、突如訪れる好きな人との出会いと別れが描かれています。小説としてはまだまだ未熟であり、病院に対する知識が不足しているものの、物語にボリュームや疾走感があり、選考委員に大きく印象を残したことは、一種の才能だと思っています。終盤の怒涛の展開には驚きましたが、前半の明るい始まりとは裏腹なタイトルにも納得しました。今後の成長に期待しています。
総評
地方にあり業歴も短い弱小出版社が開催する小説賞に応募してくれる方が、一体何人いるのだろうか……。確かな意義を感じ、そして勢いと調子に乗りながらスタートした企画でしたが、実際に情報をリリースした頃の偽らざる本音は、このようなものでした。しかしながら応募を締め切る頃には予想を大きく上回る多数のご応募をいただいており、編集部一同が目の下を薄ら黒くしながら過ごした選考期間中も、ひしひしと喜びを噛み締める毎日でした。改めまして、ご応募くださいました皆様に、心より御礼申し上げます。
「介護・医療・福祉」がテーマの本賞でしたが、その3つの中では「医療」が最も多くテーマに選ばれていました。一般的に、3つの中では、医療が最も身近に感じられているということの表れのように感じています。
半面、医療をテーマにした作品は、それに関する情報・知識が不十分だと感じるものが多かったのも事実です。創作作品の世界において、100%の正確性が必ずしも必要だとは思いませんが、それは正確な知識や情報があってこそ成り立つ理論だとも思います。webという身近なツールがある以上、手段がなかったというのは言い訳にしかなりません。たくさんの情報を積極的にインプットし、それらを取捨選択しながら自分の中に落とし込み、正確な知識に転換した上で作品に向かい合う。世界設定を自らコントロールできる性質の作品の場合は別として、現実世界を描き出す作品である以上は、そのような、言わば「書く前の努力」を怠ってはならないと考えています。
他方、長編部門、短編部門、中学生部門、小学生以下の部門、の各部門において、すぐにではないかもしれませんが、将来書籍にその著者のお名前を拝見することができそうな、強い輝きを持つ作品がいくつか見受けられました。かなり荒削りではあっても、その将来にわくわくせずにはいられない、(年齢的に、という意味だけでなく)若い才能に出会えたことは望外の喜びです。
全体を通して、ご応募いただいた作品は、授賞の結果は別として、何らかの強い想いを持って執筆されたのだろうなと感じるものが多数ありました。その想いに触れさせていただけたという喜びとともに感じたのは、想いを思った通りの形にするために、もっともっと自身の作品と、そして自分自身と、向き合っていただきたい、ということです。書く技術や表現力は、たくさんの作品を読み、たくさんの量を書き、全てについて深く思考することによって、必ず向上します。今はまだ器から情熱が溢れ出てしまっているかもしれないみなさんも、器を大きくすることは必ずできますので、自身に合った適切なやり方を選びながら、読み、書き、思考することを繰り返していただけたら、と願っています。
そして、既に募集を開始しております第2回ハナショウブ小説賞にもご応募いただけましたら幸甚に存じます。
2023年8月31日
opsol株式会社 代表取締役社長
opsol book代表 鈴木 征浩
三重県伊勢市小俣町の出版社
オプソルブック
opsol book
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